「完 子どもへのまなざし」を読む 36

「完 子どもへのまなざし」を読む
11 /16 2020
四 発達障害について (続き)
発達障害がなぜおきるのか
 子どもの成長過程で、対人的な相互関係がうまくいかず社会性がない
いうこと、コミュニケーションがうまくいかないこと、興味や関心がせま
く偏ること、これら三つの問題が共通してあり、しかも、それらが不均衡
に発達していることを、発達障害と呼んでいます
 これからお話していくとき、前に整理しました用語を前提にしつつ、あ
まり、言葉の概念にとらわれずに、それぞれの障害を説明するのにふさわ
しい言葉を使っていこうと思います。発達障害の特性のほとんどは自閉症
と重なりますから、発達障害といったり自閉症といったり、自閉症スペク
トラムといったりすることがありますが、同じ意味合いで使っているとお
考えください。また、わかりやすくするために、自閉症のなかでも、当事
者や家族が高機能自閉症とかアスペルガー症候群といっている場合には、
その言葉を使いたいと思います。
 さて、どうして自閉症の人(子どもから成人までとご理解ください)
このような問題や特性があらわれるのでしょうか。基本的には、脳全体の
働きを上手にコントロールできないということです。別の言い方をします
と、いままで学んできたこと、知識としてもっていること、経験としても
っていること、あるいは身につけた技術としてもっていること、そういう
ものを上手に、その場、その状況に合わせて使うことができないというこ
とです。
 日常生活で、私たちがこれから何かをしようと決める場合、その前に自
分は何ができるのかというさまざまな情報を、脳のなかから取り出してき
ます。過去に記憶した知識、経験したこと、技術として身につけた情報な
どを、必要に応じて、脳のいろいろな機能を総動員して取り出します。同
時に、何かをするときになくてはならない情報は残し、いらないものをど
けて、瞬時にその状況にふさわしい適応行動を決定します。ところが、脳
全体の働きを上手にコントロールできないと、いろいろな場面でちぐはぐ
な行動をとる、非常識な行動をとる、あるいは、不適応行動をおこしてし
まいます。
 すこし専門的なことになりますが、発達障害の特徴は、脳のどういう機
能に問題があっておこるのかということを、お話していきます。
 私たちは脳の後ろのはうを後頭葉、両側を側頭葉、頭のてっぺんを頭頂
葉、前のはうを前頭葉といっています。脳のコントロールは、前頭葉のさ
らに前のほうの前頭前野でおこないます。この前頭前野が、中枢神経系統
全体の働きのコントロールセンターなのです。発達障害というのは、中枢
神経系統のなかのそれぞれの中枢神経の連携が悪い状態、あるいは中枢神
経のネットワークの機能不全のことです。
 中枢神経の連携が悪い、ネットワーク機能が弱いということは、神経細
胞と神経細胞をつなげる役目をしているシナプスの、神経伝達物質の代謝
が弱いということです。だから、中枢神経の働きの多様な機能を、同時総
合的に活用することがうまくできないのです。てきばきと、必要なときに
必要な働きがすばやくできません。基本的には、このように前頭前野の働
きが、先天的にいろいろな程度で悪いことを発達障害といいます私たち
が何かをしようとするとき、この前頭前野が重要な働きをするのです。
 たとえば、いま私は、みなさんの前で講演をしています話している言
葉は、私が無数に記憶した言葉や知識や経験などの膨大な情報のなかか
ら、いま必要なものを前頭前野が瞬時に取り出してくれます。そして、
たくさん取り出した情報をすばやく取捨選択して、並びかえて短期に記憶
しておきますその短期の記憶をワーキングメモリーといいますが、ワー
キングメモリーにしたがって、いま、私はお話をしているのです。
 私はお話をしながら同時に、つぎにどんな言葉を選んで何を話そうか
ということを、たえず頭のなかに思い描きますそして瞬時に言葉を取捨
選択して、つぎにこういうことを話そうと決めて話していますまた話し
ながらこんな話でよかったかなと、これも同時瞬間的にふり返って、自
分の話したことを評価しているわけです。こういう一連の作業を、自分で
は意識していませんが、脳のなかで前頭前野がくり返しやっているので
す。
 発達障害の人たちは、脳をコントロールする機能が弱いのですが、ほか
の機能はすこしも弱くありませんし、たとえば、目で見たものを理解する
力とか、記憶力は非常にいいとか、一般の人たちよりすぐれたところもあ
ります。そこで、発達障害についてよく知らない人は、この人はこんなに
ものを知っているのに、こんなことがちゃんとできるのに、これができな
いはずがないと思うでしょう。さらに、この人は、なまけているとか、わ
がままだとか、まちがえる人がいます。そして、きびしく叱ったりむりや
りに直そうとしたりします。
 とくに、発達障害の子どもの場合どういうことならよくできるけれ
ど、どういうことは苦手なのだということを理解して育ててあげないと、
この子たちに、劣等感、自己不全感、自分に対する否定的なイメージを強
くさせてしまいます自分はだめなんだという気持ちがふくらんで年齢
が大きくなればなるほど、さまざまな問題としてでてきます。いま、発達
障害の生徒や学生たちが、発達障害者支援センターに大勢きているという
現実を考えるべきだと思います。
 なるほどと、うなずくことばかりです。しかし、現実にはむつかしい課題です。今日も幼稚園に相談に出かけてきました。年少の男の子です。つい最近、専門の医療機関で自閉症スペクトラムという診断がされました。彼の教室で、彼の行動を観察し、担任の先生とのお話合いをいたしましたが、どういうことならよくできるけれど、どういうことは苦手なのだろうということを一緒に考えてみましたが、つい、話は先生が対応に苦慮している彼の行動についての話になりがちでした。彼のよくできること、彼のよいところ探しましょう。彼の行動について、禁止や制止、注意ばかりにならないように、一緒に考えていきましょうという話にはなったのですが、年齢が小さければ小さいだけむつかしいと感じます。しっかり、学んでいきたいと思います。続きます。お付き合いよろしくお願いします。

「完 子どもへのまなざし」の復習 55

「完 子どもへのまなざし」復習
02 /27 2021
ご来訪ありがとうございます。きょうは、
八 発達障害の当事者や家族の声 から、

【話の早さについていけない」

についてメモしてみます。

     *****

知的発達や言葉の発達がいいアスペルガー症候群の人たちは、

親がすこしほかの子どもとちがうかなと感じても、見すごされてしまい、

大きくなってから、いろいろな不適応をおこすことが多いのです。


大学で、アスペルガー症候群の学生とも、話し合うことがあります。

私の印象では、話を聞きたいというよりも、

自分のことを多く聞いてもらいたいようでした。

彼らは自分のほうから話をするのは、それほど大変ではないようですが、

長い話を聞き続けるのは、苦労するようでした。


大学では、授業によりグループを組んでもらい、

話し合いをしておいてくださいということがあります。

すると、かならずグループの仲間から

「何さんはみんなの話し合いに絶対入ってこようとしない」

といわれる人がいます。

そういう学生は、アスペルガー症候群である可能性があります。


その学生に話を聞きますと、

「グループのみんなが自由に話し合っていますが、

 私は、その早さについていけない」といいます。

その学生が、みんながいっていることを聞いて

「ああ、わかった、こうなんだ、ああいうことなんだな」と理解して、

こう発言しょうと思ったときには、もう、みんなの話は先に

進んでしまっているというのです。ですから、

彼は話し合いに入らないのではなくて、

みんなの話す早さに追いつけないのです。

だけど、グループのみんなは、

ふだんは自由にしゃべっている学生ですから、当然、

みんなの発言もわかるはずだと思っているのです。


そういうときには、アスペルガー症候群であることを、

本人にも家族にも説明します。そして、

「ほかの学生にも、あなたのことをしっかり理解してもらったほうが

 いいとおもいますよ」と話、

「あなたがいやなら、誰にも言わないけれど、

あなたが希望する学生がいるなら、私のほうからせつめいしますよ」

といいます。そのことは決定的に大切なことです。


グループの学生には、話をこきざみに区切って

「今の意見に対して、何さんは意見がありますか」

と聞いてあげてください。

「ない」と言ったら先に進んでくださいと説明します。

まわりのみんなが協力、協調する、アスペルガー症侯群の人でも、

たいていの人は自由討論にちゃんと入っていけます。


自分たちのことをよく理解しないまま、熱心にしつけや教育をしようとして、

口うるさくあれこれいうおとなや教師は、

災害にあったときのように自分たちを絶望的にする、

というのがアスペルガー症侯群の人たちの、ほぼ共通した気持ちでした。

     **********

お話を読むと、なるほどなと納得するのですが、日ごろの生活の中で、佐々木先生のように、この人はアスペルガー症候群の人ではないかと気が付くのだろうかと自問をしていました。日常の会話がなんとなく成り立っていると感じていると、なかなか気づかないのではないでしょうか。大学生の皆さんが、ゼミなどのグループの仲間の学生について、「何さんはみんなの話し合いに絶対入ってこようとしない」と感じているということは、まさにそうではないかと思ってしまいます。ふだんの生活でも、もう少し注意深く見ていく必要があるということなのでしょうね。

「完 子どもへのまなざし」の復習 54

「完 子どもへのまなざし」復習
02 /26 2021
ご来訪ありがとうございます。きょうは、
八 発達障害の当事者や家族の声 から、

【自分のことを知らなかった】

についてメモしてみます。

     *****

自閉症スペクトラムといわれる人たちは、

自分のことをよく理解してくれる人のそばにいるときしか、

安定した状態でいられません。


私が書いた新聞や雑誌の記事を読むまでは、

自分の子どもが自閉症であることを知らなかったという家族からの感想が、

想像以上に多いのにおどろきました。


ある地方の母親からは、

「佐々木先生の雑誌の記事を読んで、はじめてわが子が

 アスペルガー症候群であることを知りました。

 そこに書かれている、自閉症に対して不適切なことのすべてを、

 自分はわが子に三〇年以上もくり返してきてしまいました。

 もっと早期に子どもの障害について知ることができなかったのか、

 悔やまれてなりません」というお電話をいただきました。

「現在、その子は三〇代になり刑務所に入っていますが、

 今度でてきたときには、自分が過去にしたことをあやまって、

 今後はわが子に適切な対応をすることで、自分の人生のすべてを

 懺悔の気持ちで生きていきたい」とおっしゃっていました。

その母親の電話を聞きながら、自閉症の子どもへの無理解が、

大きな不幸につながることの意味をあらためて考えました。


新聞記事を読んで、はじめて自分はアスペルガー症候群であると

わかったという人からも、あいついで電話をいただきました。


高機能自閉症、アスペルガー症候群の人が、

親や家族をはじめ多くの無理解な人のなかで育てられています。

どれほど苦痛なのかということを、話してくれるようになりました。

多くの発達障害の人たちが、深刻な苦悩をかかえ助けを求めていることが、

手に取るようにわかり、私は自分の無力さにうちひしがれる思いがします。

     **********

前章の最後は、頑張っている自閉症の人たちの例でしたが、今回の話を読むと、反対に苦しんでいる事例がいかに多いかということに、佐々木先生ならずとも、心が痛みます。とりわけ、一番身近で、何より理解して欲しい母親の無理解に苦しむという事例には、なんといってよいのか言葉が見つかりません。こういう事例がなくなることを心から願いたいものです。

「完 子どもへのまなざし」の復習 53

「完 子どもへのまなざし」復習
02 /25 2021
ご来訪ありがとうございます。きょうは、
七 保育、教育の現場で から、

【失敗を乗りこえて働いています】

についてメモしてみます。

     *****

この高機能自閉症の青年も、一歳半健診以来のおつきあいです。

入学偏差値の高い大学を卒業しました。


何度か面接に失敗し青年は運送会社のトラックの助手に採用され、

やがて中型のトラックの運転を任されました。

ところが、決められたルート以外の道を利用することをしません。

渋滞していても決めた道路しか走らないために、

予定時間を大幅に遅れるということが重なり、解雇されました。


彼は自分で事業をすることを思いつきました。

資本金がない、店舗もない、いきなり高額な収入がなくてもいいけれど、

損をして借金を背負いこむようなことも困ると、彼は考えぬいた結果、

家を事務所に使用させてもらい、

商品の受託販売の仕事をはじめることにしました。 


彼は事前の条件として、販売を受託した商品は、

売れてから代金を支払えばよいこと、また一定期間内に

売れ残った商品は返品できるということです。

条件を満たした取引先を見つけ、事業開始となりました。

代金が後払いで、返品も可能だという条件では、

利益率は低くなるのですが、彼はその方法を選びました。


取引先の本社での研修で、

まず知り合いの人に電話や手紙で注文を取るようにと教えられました。

彼は学生時代の同窓会名簿や町内会の名簿を利用して、

教えられたとおりに連絡と注文取りに熱中しました。

一度や二度断られたくらいではあきらめないで、

教えられたとおりに実行しました。

この仕事のやり方が、相手の不評や怒りを買うことになってしまいました。

相手の気持ちを察することができないので、ほぼ一様に、

だれかれかまわず、押しの一手でやってしまったのです。

一部では警察沙汰にまでなってしまい、また挫折してしまいました。 


その後、障害者として療育支援を得て、障害者枠で特例子会社に就職する

ことができましたが、職業訓練センターで技術を身につけるときも、

さまざまな苦労をしたそうです。


一般的に、自閉症の人は職業訓練センターでちゃんとできた仕事でも、

まったく同じ仕事を工場でやろうとするとなかなかできないのです。


なぜ、職業訓練センターでできることが、

ほかの場所ではできないのでしょうか。

場所と行動が一対一の関係で強く結びつくのが、

自閉症の人の特徴だからです。

そして、この人たちの、予期しないことがおきることに対する恐怖は、

私たちには想像できないほどのようです。

彼はジョブ・コーチの支援も受け、会社でも安心できるようになり、

仕事をきちんと覚えて、いまでは、会社から感謝されるほど

勤勉ですぐれた能力を発揮しています。

     **********

この章の最後にふさわしい、失敗にくじけずそれを乗り越えて頑張っている青年のお話でした。しかし、そのためには、周囲の理解と協力が不可欠であることをこの例でも教えられますね。

「完 子どもへのまなざし」の復習 52

「完 子どもへのまなざし」復習
02 /24 2021
ご来訪ありがとうございます。きょうは、
七 保育、教育の現場で から、

【元気に働いています】

についてメモしてみます。

     *****

おかやま発達障害者支援センター長の土岐淑子さんは

「自閉症スペクトラムの人にとって、たんなる学歴は、

 将来を保証することにはなりません。

 大切なことは、その人の自尊心や自己肯定感を

 しっかり育ててあげることです」と、話していました。


私たちは過去、高機能自閉症、アスペルガー症候群の人たちに対して、

適切な理解を欠いた養育や教育をしてきた結果、自己否定的な劣等感を、

大きく感じさせてしまうような育て方をしてきてしまったのです。

「あなたはこのようなことが、こんなによくできるのに、どうして

 このようなことがわからないの」というやり方の養育や教育です。


自閉症であるという事実をふくめて、

子どもが親からありのままの状態を受容されることが、

何よりも、基本的に重要な意味をもつと思います。


乳幼児健診で、自閉症と疑われ、私のところに、

親と子どもが訪ねてきました。その後、長い間おつきあいしてきて、

いまではりっばな青年になっています。


その子は三歳をすぎたころから、急速に発達がみられたこともあり、

父親は

「友達と遊ばなくても、漢字や数の計算がよくできることのほうが

 価値が高いのだ。大きくなって社会にでて実際に役に立つのは、

 友達と遊んだ経験より勉強で身につけたことだ」といって、

自分の希望的な観測での発言をくり返しました。


順調に育ち、大学も卒業し、大手のスーパーマーケットに就職。

自閉症のまじめさと勤勉さという特性をそなえており、

定められたとおりに実直に働きました。

その結果、青年は三年あまりで、新しくオープンすることになった店の、

主任に抜擢されようとしたのです。父親は大喜びをしましたが、

母親は非常に心配しました。自閉症の特性を理解していましたから、

新しい仕事でひどい苦労をさせたくないし、まして不幸な挫折など、

絶対に避けさせてやりたいと思ったからです。


母親の希望と本人の同意を得て、私もその会社にでかけ、

この青年はどのようなことがよくできて、

どのようなことはできないかということを、

会社の重役の方々に説明しました。


その結果、会社や周囲の人の理解も得ることができ、

彼は、いまも元気に働いています。

     ********** 

なにか、ほっとするエピソードのお話です。自閉症である我が子について、適切に理理解ができ、その特性に合った働き方にまで思いがいたるお母さんに恵まれたことが幸いしましたね。いかに、自閉症の人たちの特性を適切に理解することの大切さを再確認するようなお話でした。


コハルの爺

児童養護施設に併設された、「子育て支援相談室」の心理相談を担当しています。