「子どもへのまなざし」を読む 29 - かわいがり子育て

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「子どもへのまなざし」を読む 29

乳児期に人を信頼できると子どもは順調に育つ』 (続き)
 赤ちゃんが望んだことは満たしてあげる
 三〇年も前のことですが、ヨーロッパの学者や研究者や臨床家の間で、
赤ちゃんが望んでいることは、どんなことでも無条件で満たしてあげたほ
うがいいか、そうしないほうがいいかで、意見がわかれていました
 子どもがなにかを望んだとき、いつでもなんでもしてもらえるのだとか、
泣いて要求すれば、なんでも思いどおりになるのだという育て方をするこ
とは、子どもの依頼心を強くするだけかもしれない、非現実的な願望をも
たせるだけかもしれないし、その結果、きわめて依存心の強い、依頼心の
強い、自立をしそこなう子どもに育つ可能性があると、熱心に主張した人
たちもたくさんいたのです。

 現代のわたしたちの中にも、まだまだ子どもを、とりわけ、小さいときに甘やかしてはいけないという思い込みがあるように感じます。お祖父ちゃん、お祖母ちゃんは子どもを甘やかすからとお祖父ちゃんやお祖母ちゃんとの行き来を嫌がる若いお母さんにもよく出会います。

 結論はわからないから、乳児院で実験的な育児や養育をしたのです。研
究、観察のなかから、ここでは深夜の授乳だけを例にとってご紹介します。
 赤ちゃんを二つのグループにわけて、一方は、泣いてもなにしても深夜
には授乳しない、昼間も規則正しく乳児院のやり方で定時授乳を守る
う一方は、子どもが望むたびに授乳をするというふうに、実験的な育児を
しました。子どもが望むたびというのは、授乳の要求だけを聞いてあげる
というのではないのです。子どもの要求にしたがってあやしてあげるとか、
だっこをしてあげるとか、遊び相手をしてあげるとか、そういうことも全
部ふくめて、子どもの希望は可能なかぎり、すべてかなえてあげるという
育児をするわけです。
 最初のグループで深夜の授乳はけっしてしないと決めますと、一部です
が、早い赤ちゃんは三日も泣けば、翌日まで泣かないで待てるようになる
そうです。授乳したりしなかったりすれば別ですが、深夜にはけっしてお
っぱいをやらない、あやさない、だっこをしないというようにしますと、
たいていの赤ちゃんでも一週間前後で、翌日の朝まで泣かないで、おっぱ
いを待てる子になるそうです。二週間をこえてもなお、泣き続ける子ども
は例外的にしかいないことも、実験をやってみた結果、研究者は報告して
います。
 三日にしろ、一週間にしろ、二週間にしろ、要求したり泣き続けたあげ
く、翌日の朝まで泣かない子になったという場合に、物分かりのよい、忍
耐づよい子どもになったのかどうかということです。そういうことについ
ての議論もおこなわれました。研究の継続中に、シンポジウムがおこなわ
れたり、学会での討論がおこなわれたりしています。
「そら、ごらんなさい。もう三日で子どもによっては、翌日の朝までおっ
ぱいを待てる忍耐づよい、現実認識がしっかりした、かしこい赤ちゃんに
なるではないか」といった考え方をした研究者もいました。規則正しい授
乳をふくめた、一定の方針にもとづいて育児をすることがたいせつだと主
張した人たちには、たとえばピューリタンといわれるような、禁欲的な宗
教をもつ臨床家に多かったともいわれています。
 一方では、本当にそうかどうかはわからない、もっと子ども一人ひとり
の個性や要求にしたがって、育てるのがいいと主張し続けた学者もいます。
そしてその後、子どもたちをずっと追跡し、観察が続けられました。
 そうしましたら、結論的にわかったことは、三日ぐらい泣いて翌日まで
待てるようになった子どもは、一部の専門家が予測したような、いち早く
忍耐づよい子になったのではなくて、むしろ困難にたいして早くギブアッ
プする子だということがわかったのです。忍耐づよくないのです、反対な
のです。いつまでも泣き続ける赤ちゃんのほうが、本当は忍耐づよい、簡
単にはギブアップをしない子どもだったのです。
 おなじ養育環境で、深夜にもおっぱいがほしいときには、いつまでも泣
き続ける、すなわち、努力をし続ける子とそうでない子がいるというのは、
その子がもって生まれてきた、素質や個性のちがいによるところが大きい
のかもしれません。
 何年にもおよぶ追跡観察の結果では、赤ちゃんのときに、深夜にはおっ
ぱいはもらえないということがわかって、すぐ泣かない子になった赤ちゃ
んは、早く現実の意味を理解して、かしこく忍耐づよい子どもになったな
んて想像したら、とんだまちがいでして、ちょっとした困難をすぐ回避し
ようとする、困難を克服するための努力を、すぐ放棄する子どもに成長し
ていったのです。そして、いつまでも、二週間以上も泣き続けた赤ちゃん
のほうが、努力をし続ける子どもに成長していったのです。だめなものは
だめだとすぐあきらめる子と、なにごともすぐにはあきらめない子、とい
うふうに表現してもいいかもしれません。

 すぐに泣かない子になった赤ちゃんと、二週間以上も泣き続けた赤ちゃんの違いもさることながら、早い赤ちゃんは三日もすれば翌日まで泣かないで待てるようになり、たいていの赤ちゃんが一週間前後で、翌日の朝まで泣かないで、おっぱいを待てる子になるというくだりです。

 赤ちゃんに応えることを一週間もおこたれば、たいていの赤ちゃんは要求をしなくなってしまうかもしれないということです。ここのところは肝に銘じておきたいと思います。

 ところが、それ以上にたいせつなことが観察され、知られることになり
ました。三日にしろ、二週間をこえてにしろ、結局はだめなものはだめだ
ということで、泣きやむしかなかったということは、子どもの心に周囲の
人や世界にたいする漠然とした、しかし、根深い不信感と自分にたいする
無力感のような感情を、もたらしてしまうということです。
 それにたいして、深夜であろうとそうでなかろうと、泣くことで自分の
要求を表現すれば、その要求が周囲の人によって、満たされるということ
を体験し続けた赤ちゃんは、これから報告しますように、自分をとりまく
周囲の人や世界にたいする信頼と、自分にたいする基本的な自信の感情が
育まれてくるのです。
 まさに、佐々木先生が提唱する、かわいがり子育ての根拠になる実験結果です。明確なエビデンスがある育児ですね。まさに、基本的信頼感が身につくかどうかが、こういうところにかかっとぃるのですね。明日に続きます。お付き合い、ありがとうございます。
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