「完 子どもへのまなざし」を読む 43 - かわいがり子育て

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「完 子どもへのまなざし」を読む 43

五 発達障害の特性 (続き)
見る範囲がせまい
 自閉症スペクトラムの人たちは、興味や関心がせまいところに集中しが
ちだといわれます。認識する対象がせまいのですが、そのぶん、関心の示
し方に強い傾向があります。ですからおとなになったときに、一芸に秀で
たり、特別な領域の問題に高度な専門性を発揮する人になることも、けっ
して少なくありません。ものの細部にこだわる、全体を見ることができな
い、同時総合的に視野にとらえることができない、これらは自閉症スペク
トラムの特徴です
 オランダの高機能自閉症の人で、ヴァン・ダーレンという人がいます。
ものの細部にこだわる、全体を見ることができないことについて、「私は
ものごとの認識の仕方が、ほかの人たちとはちがうということに気がつい
ています。たとえば、目の前にハンマーを差しだされたとき最初からハ
ンマーだということはわからないのです。なぜなら、自分はなにごとも全
体ではなく細部から考えるからです。まずは方形の鉄のかたまりだけに目
がいき、そのつぎに、そこに木の棒が横たわっていることに気がつきま
鉄のかたまりと木の棒がつながった性質のもので、全体の形が統合的
に理解されるのはそのあとで、その名称のハンマーにたどり着くことがで
きるのは、さらにまた、そのあとのことなのです。
 これらの連続した各段階を統合していく過程には、それぞれかなりの努
力が必要なのです。私にとって何かを認識するということは、いつもこの
ように明確な一連の考えを組み立てることなのです。本当はこんなことは
意識的な努力をしないで、すばやく自動的になされなければいけないので
しょうが、何を認識するにも、全体ではなく部分を見ることになる自閉症
の感受性のために、しかたがないのです。
 だれかがハンマーで釘を打って見せてくれると、こういうときに使うも
のだというのがわかりますだけど、つぎにまたハンマーを見せられて
も、すぐにはわからないのです。その鉄のかたまりと木の棒がちがった
ら、まったく別のものに見えるのです」といっています。 ハンマーだけ
ではなく、彼がものを認識するときには、こういう過程が長く続くので
す。
 テンプル・グランディンさんと講演会でお会いしましたとき、テンプル
さんも白い紙を見せられても、すぐには紙だとわからない。表面がなめ
らかで白いもの、それから平らで薄いもの、全体の形が四角いものという
ように部分から見ますこれらをつなぎ合わせていって、紙だと認識しま
」と、同じようなことをおっしゃっていました。自閉症の人たちは、一
つのものを認識するまでに大変なことをしているのだなと、私はあらため
て思いました。
 見たもの、見えるものを見たとおりに覚えて記憶する力は、ヴァン・ダ
ーレンさんやテンプル・グランディンさんは、私たちよりはるかに高い能
力をもっています。でも、言葉の意味については、見たものと一対一に、
個別に対応して記憶していきますから、ヴァン・ダーレンさんのように、
そのときハンマーの言葉の意味を覚えても、つぎに、まったく別のハンマ
ーを見せられると、すぐにはわからないのです。
 テンプル・グランディンさんは、「私の場合は、東京タワーとか教会の
タワー(塔)という言葉を、本で読んだり、話のなかで聞いたりしたときに
は、まず最初に、特定の教会がばっと目に浮かびます。ところが、一般の
人がタワーという言葉を聞いたら、エッフェル塔も東京タワーも無数にあ
る教会のタワーも、すべて同じように思いうかべるみたいですが、私には
それができないのです。タワーという言葉を聞いたら、すぐに、あの教会
のタワーだと思ってしまいますそういうふうに思考パターンができてい
のです。
 一般の人の思考パターンは、タワーの一般的概念をまず頭に浮かべてか
ら、徐々に、具体的なあのタワーのことですかというように、話が進んで
いくようです。でも、私の場合には、タワーという言葉の意味を、目に見
える、あのタワーだということを教えられて、それをしっかり記憶してか
ら、ほかにも同じような形のものを見たことがあるだろうかと記憶をたど
っていきます。それから、いくつものタワーが頭に浮かんでくるのです。
いつもこうです」とおっしゃっていました。
 テンプル・グランディンさんは具体的で、個別的でないと意味になら
ない」といっていましたが、個別的というのは一対一の関係です。自閉症
の人たちは、ものごとを認識するとき、視野がせまいところにかぎられ
て、それから全体の意味を探しだすのです。私たちは何々タワーはどこに
ありますかと聞かれた場合、まず、タワーという言葉の意味を一般的概念
として思いうかべます。それから、このタワーはどこのものかなというよ
うに、一対一、個別的に考えながら、何々タワーがどこにあるのかを判断
していきます。このように、自閉症の人たちと私たちの思考の流れがちが
うのです。
 自閉症の人の特性に、関心とか認識とか意識とかいうものが、せまいと
ころに強く向かうということをお話しましたが、これをシングルフォーカ
スといいます。視野がいつもせまいところに向いていて、同時にいくつも
見わたすことが苦手です。だから、大きな公園など広々としたところへ行
っても、景色を広範囲に眺めている自閉症の人はめったにいません
 四〇年近く前に、私は東京大学の精神神経科の小児部に勤務していたこ
とがあります。自閉症の子どもたちが、視野がせまいところに向かうこと
は、そのころから知っていましたが、それがなぜなのかわかりませんでし
た。大学病院ではダウン症と自閉症の子どものデイケアをやっていまし
て、よく公園とか広場に行ったものです。そうしますと、ダウン症のお子
さんは広いところへ行くと、わぁ―と開放的になって、あれもこれも一生
懸命に見ようとしたり、広範囲に遠くを眺めていたりします
 でも、自閉症のお子さんは、座りこんで日の前にあるものを集中して見
ているだけでした。「こんな広いところにきたんだから、景色を見てごら
ん。この広い運動場を走りまわってごらん」といっても、関心を示しませ
んでした。そのころのことを思い出し、自閉症の人の特性をあらためて考
えさせられました。
 今日も、発達障害の特性です。毎日、そうなんだと感じいるばかりです。しっかり覚えておきたいと思います。続きます。
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