「完 子どもへのまなざし」を読む 48 - かわいがり子育て

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「完 子どもへのまなざし」を読む 48

五 発達障害の特性 (続き)
ものごとを忘れることができない
 アメリカ自閉症協会の広報担当理事をしていたチャールズ・ハートさん
、自らも自閉症の男の子をもつ父親です。ハーバード大学卒の自閉症の
専門家で、『見えない病という本をお書きになっています。何年か前、
日本自閉症協会の招きで来日され、各地の講演会で、わが国の聴衆に大き
な感動を与えました。ハートさんは、講演で「わが子だけではなく、自閉
症の人にたくさん出会ってきてしみじみ思うことは、この人たちの共通し
たもっとも重要な特性を一つだけあげるとしたら、私は迷わず、ものごと
を忘れることができないで、苦しんでいる人たちといいたい」というお話
をされました
 前にお話をしたかと思いますが、自閉症スペクトラムとは、発達が単純
に遅れている状態ではなく、発達の要素や領域が、不均衡で偏っているこ
とです。たとえば、年齢が一〇歳の場合に、一般の子どもなら発達の面も
年齢にふさわしいレベルになります。ところが自閉症の子どもの場合は、
ある領域の発達が六歳くらいのレベルであったり、ほかの領域では一四歳
くらいの発達レベルであったりと、発達にばらつきがあるのです。
 自閉症の大きな特性として、ものを見て理解する、目で見て覚えてい
く、しかも記憶力が非常にいいということがあります。一方、見えないも
のに意味をもたせることが非常に困難で、たとえ、話し言葉がかなり達者
な人でも、人のいった言葉を理解するのが大変むずかしいということがあ
ります。このような特性を、親や周囲の人が理解して療育や教育をしてい
けば、不幸な状態になるということはないのですが、現実にはなかなかそ
うはいかないこともあります。
 この子たちは一歳半くらいのときにさまざまな問題があって、専門家
や療育者が見て「おやっと思うことがあっても適切な療育システムが
ないと、診断しただけで放っておかれることがあります。家族もその子の
問題を正しく受け入れることができません。ところが、二歳半から三歳く
らいになると、知能や言葉の発達がよくなってきて、記憶力のよさも目立
ってきます。そうすると、親や周囲の人にはすべての能力が高そうに見え
るわけです。そこで「こんなことができるのに、どうしてあんなことがで
きないのと、苦手なところ、だめなところを修正しようという療育や教
育をしてしまいます。けれど、この子たちは、がんばれば苦手なことでも
できるようになるということはありません苦労ばかりで成果があがらな
のです。そして、ちょっと変わった子だとか、しつけの問題だろうと
か、無理解のまま育てられ、苦しい記憶だけが残ってしまいます
 ハートさんは、自閉症の人は過去の苦痛(心の傷)を、記憶のなかから消
し去ることができないために、どれほど苦しんでいるかということを、周
囲の人は知ってほしいと話されました私たちならば、時間の経過が解決
してくれるようなことを、けっして忘れることができずに、どれほど苦し
みの多い生活をよぎなくされているかということに、養育や教育にあたる
人たちは、十分な配慮をしてほしいというのです。過去の苦痛に満ちた記
憶は、ささいなきっかけで、突然目の前に降ったようにわいてくるので
す。何年も前におこったことであっても、タイムスリップして現在にフラ
ッシュバックしてくるのです。
 過日、私はある地方の都市で、発達障害の人たちのために、教育などど
のような支援をするのがよいかという主題をめぐって、講演とシンポジウ
ムの会に参加していました。会場には、高機能自閉症の当事者の人たちも
出席していました。
 会では、その地方の中学校の校長先生が、自分の学校での発達障害の生
徒に対する、すばらしい教育実践の様子を報告されました。会場の多くの
参加者も私も、そのすぐれた取り組みを感動をもって聞きました。ところ
が、その報告が終わって休憩に入ったとき、控室にいる私を訪ねてきた人
がいました。知的能力の高いアスペルガー症候群の女性で、会社に勤めな
がら主婦もしているという人でした。
 校長先生のお話は、私たちにとってはすばらしい学校教育の実践報告で
したが、それを聞いていたその女性には、自分の中学時代の記憶がよみが
えってきたというのです。それも、教師からの叱責やクラスメートから受
けたいじめの記憶が、まさにフラッシュバックしてきたのです。彼女は青
ざめて冷や汗をかいて、激しい息づかいをしていました。
 彼女は、私に懇願するように「先生、ここは中学校ではないと、くり返
しいってくださいといいました私はそのとおりにしながら、その場所
が別の会場であることを、何度もくり返しいいました。発達障害の人に
は、子ども時代から、けっして心の傷を残すようなことをしてはいけない
のです。
 発達障害の人に対する適切な理解と支援の大切さが、改めて強調されています。児童養護施設で不適応を起こしている子どもたちにも、きっと当てはまるのだろうと、心が痛みます。
 特性について続きます。お付き合いありがとうございます。
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