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「語りかけ」育児 45

 3歳から4歳までの 1日30分間 語りかけ育児
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◆ 毎日、30分間だけは、こどもとしっかり向き合います
 ほかのこどもと遊ぶことがとても大切になってきます。遊びのグループや保育園で過ごしたり、うちに遊びにくる友達から学ぶものがとても大きいのです。
 それでもあなたとだけ過ごす時間も貴重です。どうぞ続けてください。「語りかけ育児」はことばを学ぶのにいちばん適した場ですし、こどもの注意レベルを理解しているおとなと一緒にいることはとても役立ちます。新しい遊びを考え出す手助けをしたり、遊びの幅を広げてあげるなど、多くのことをしてあげられます。
 おとなが、いつも自分の言うことに耳を傾けてくれるし、見守っていてくれるという信頼感は、こどもに大きな安心感を与えます。そのときに、やってはいけないことや、やってほしいことを話し合うこともできるので、ふたりともいらいらしなくてすみます。こどもにとって、何でも質問に答えてくれるおとながいるすばらしさは、たとえようもありません
こどもにとって何でも質問に答えてくれるおとながいるのはすはらしいことです

◆ 始める前にチェックすること
 ふたりだけで静かなところであれば、いろいろな場面が使えます。庭仕事をしたり、窓に植木台を置いたり、小鳥のえさ台を作ったり、料理をするといったことをしながら、お母さんと一緒にいたいと思っているでしょう。散歩や外出もすてきです
 家にいるときには、絵の具や粘上のような創作遊びに使える物や、探索遊びやごっこ遊びに役立つような物を用意しておくのもいいでしょう。

◆ ことばがつっかえる
 この時間がこの年齢のこどもにとって大切なのは、もうひとつ理由があります。3歳から4歳の子の半分以上が、同じ音やことばを何回もくり返す時期があるのです。これは頭の中にはいっぱい言いたいことがつまっているのに、それを全部表現するだけのことばを持たないからなのです。言いたいことを言おうと一生懸命になると、くり返しが起きます
 考えることに集中しているため、こども自身はことばをくり返していることにまったく気づいていません。この段階はまったく正常なものですし、こどもの言語能力が発達するにつれて数週間から数か月でおさまっていきますにもかかわらず、周囲のおとなが不必要に騒ぎ立てたり落胆したりすることが多いのです。こういうとき、どうすればよいかお話ししておきましょう。
 知り合いに吃音(どもり)の人がいたり、特に親戚に吃音の人がいると、親はこどもが吃音になり始めたと早とちりして、パニックに陥ります。決してよい結果を招かないのに、よくやってしまうのは、こどもを助けるつもりで「もう一度言ってごらん、ゆっくりね」「話す前に深呼吸して」といったことを親が言い、幸いにも何も意識していなかつたこどもが、くり返しをやめようと努力し始めることです。これがかえつて混乱を、そして吃音を引き起こしかねないのです
 前と同じように、こどもに自分の話し方を意識させないという鉄則が、この時期もとても大切です
こどもに自分の話し方を意識させてはいけません

 コミュニケーションをとる上で何のストレスもない、という状態を経験させ、この時期をうまく通りぬけるために、「語りかけ育児」の時間はとても大切なのです
 こどもは競って話す必要がなく、話す時間がたっぷりあります。じゃまされることもなく、質問に答えさせられたり、何かを言わなければならない負担もありません。おわかりのことと思いますが、「語りかけ育児」のとても大切な原則は、一貫してコミュニケーションの負担を感じさせないことです。だからこそ、「語りかけ育児」をやったこどもはコミュニケーション上手になるのです

    マイケルはちぢれ毛のかわいい3歳でした。お母さんが緊急に診てほしいと言
   ってきました。マイケルが吃音になり始めたので、パニックに陥っていました。
   お母さんには吃音の兄弟がふたりいて、その大変さをよく知っていました。お母
   さんはしよっちゅうマイケルにゆっくりしゃべってと言っていましたが、マイケ
   ルがかえって吃音になるようになったと感じていました。
    マイケルはおもちや箱にとびつき、ぺちゃくちゃおしゃべりし始めました。言
   いたいことがいっぱいあるのは明らかで、あることばを最大15回もくり返しまし
   た。自分では全然気づいていないし、お母さんに比べてまったく緊張もしていま
   せんでした。
    マイケルのお母さんは、これは正常な発達段階だと聞いて救われた気持ちでし
   た。数週間後に電話してきて、マイケルはほとんど吃音にならなくなったと言い
   ました。

 この時期に有効な方法はもうひとつありますこどもが早口なら、あなたのしゃベる速度をおそくすることですそうすればこどももまつたく意識することなくゆっくり話すようになります
こどもが早口ならあなたのしゃべる速度をおそくします

     **********
 3歳から4歳までの 1日30分間 語りかけ育児の章に入ります。どの時期の章でも、書き出しはいつも同じですね。この時期になるとこどもの活動範囲がひろがり、人間関係も大きく広がります。ともだち遊びも大切になってきます。それでも、この時間の持つ意味は大きいというウォードさんのお話です。この時期の「語りかけ育児」は、静かなところであれば、いろいろな場面が使えるようですから楽しみも増えることでしょう。この時期に注意しなければならないこともお話されています。それは、こどものことばがつっかえるという状況がよくみられるということと、それについての対応を間違えないようにということです。こどもの言語能力が発達するにつれて数週間から数か月でおさまっていくにもかかわらず、周囲のおとなが不必要に騒ぎ立てたり、「もう一度言ってごらん、ゆっくりね」「話す前に深呼吸して」といったことを親が言いだすことによって、吃音を引き起こしかねないということです。よく覚えておきたいですね。
 週末です。コロナ感染者数が少し落ち着いて来たようですが、感染予防に留意され、良い週末になりますよう。今週もありがとうございます。週明けからお待ちしております。

「語りかけ」育児 44

 2歳6か月から3歳までの 1日30分間 語りかけ育児 (続)
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◆ こどもに質問するときには
 前章で触れたように、こどもにできごとの流れを思い出させるような質問のし方をしましょう。「いすからおりたあと、歯医者さんが何をしたか覚えている?」といった質問は、できごとをしっかり思い出させるでしょう。
 こういう質問は、数を制限すること、こどもが答えないときはおとなが自分で答えることが大切です。こどもが返事をしなかったら、かわりに「先生はコートを取ってくれて、それからコートに貼るシールもくださつたわ」と言ってあげます。
 こどもに答えさせようと質問してはいけません。このことはとても大切です

    3歳のかわいいマイクがクリニックにやってきました。マイクはまとまった話
   ができませんでした。お母さんはなんとかマイクにまとまった文を言わせようと、
   質問をあびせ続けていました。「あれは大きなバス、それとも小さな車?」コ」れ
   は黒いソックス、それとも白い手袋?」といったぐあいです。
    マイクは絶対答えるものかと、どんどん内にこもって、ほかの人の存在まで無
   視するようになりました。お母さんが質問をこどもの注意にそった語りかけに変
   えたとたんに、マイクは一緒に遊び、とっても楽しい子になりました。マイクは
   想像力豊かなアイディアやすばらしいユーモアのセンスを持っていました。

「ミルクがいい、それともジュース?」といったあなたが答えを知りたくて聞く質問は、もちろんかまいません。この種類の質問には「次の番はクマちゃんなの、それともお母さん?」といったこどもの心にあることをはっきりさせるものもはいります
 おとながその答えを実際に知らないことについてたずねる質問は、してかまいません。これが鉄則です
あなたが答えを知らないことだけを質問してください

◆ 「語りかけ育児」の時間以外には
◎ こどもができることは、なるべく自分でやらせましよう。
 そのとき、こどもがいらいらしないように、手助けできるくらいそばにいてやります。
◎ なぜそうしなければならないか、あるいはしてはいけないかを説明します。
◎ 料理や庭仕事といった家事をやっているところを、できるだけ見せます。
◎ 毎日の暮らしを通していま、何がどうなっているのかを話してきかせます。
◎ 公園の大きな遊具で遊ばせます。
◎ ほかの子のそばで遊ばせます。
◎ 床屋や歯医者に行ったあとなど、経験したことを再現してみる機会を、与えましょう。

【まとめ】
 ここに書かれているのは平均的な発達のようすです。赤ちゃんによってそれぞれ発達は異なります。お子さんがここに書かれていることを全部できていなくても心配ありませんが、満3歳で、「気がかりなこと」にあてはまる場合は、専門家に相談してみてください。また、赤ちゃんについて疑問な点があれば、いつでも保健婦や、かかりつけの医師のところに連れて行きましよう。

◆ 3歳ころの、こどものようす
◎ 簡単な3つの内容(箱をあけて、車を出して、パパに見せてね など)を含む指示がわかります。
◎ ひとり言で、いま起きていることを長々と話します。
◎ 起こったできことについての会話に仲間入りします。
◎ 名字と名前が言えます。お話をとても喜んで聞きます。

◆ 気がかりなこと
◎ あなたの言ったことをわからないことがよくある。
◎ 家族以外はこどもの言うことがよくわからない。
◎ ほかの人がわかつていないということに気づかない。
◎ よく見当違いのことを言う。物語に興味をもたない。
◎ まだ単語がふたつか3つの文しかしゃべらない。質問をまったくしない。
◎ ほかの子と遊ぼうとしない。集中していられる時間がごく短い。
 
    **********
 2歳6か月~3歳の時期についての章は今日で終わりになります。この時期の子どものことばの面での発達には目を見はる思いですね。どの時期にも通じる注意点や「語りかけ育児」の鉄則についても、毎日続けることでなれてしまって、ついうっかりということも起きやすくなりやすい気がします。特に、言い直しや質問の際に起きやすいように感じます。子どものプライドを傷つけることがないように、楽しい時間になるようにしていけばうまくいくのかなという気もします。心して楽しく続けたいですね。

「語りかけ」育児 43

 2歳6か月から3歳までの 1日30分間 語りかけ育児 (続)
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◆ 聞くことを楽しめるように気をつけましょう
 こどもが聞くこと、特に声を楽しめる機会をたくさん持つように努めます。くり返しのリズムや動きのあるわらべ歌は、いまなおすばらしいものです。だじゃれなどがはいったことば遊び歌や、せき、くしゃみをしてふざけたりすることなどもおもしろがります。びっくりしたり、怖がったりするおおげさな表現もうけます。
 おとなに対してより、少しゆっくり大きな声で話し、いろいろな調子をつけることは続けてください。それがいちばんこどもを引きつける話し方です。車で遊ぶときダダダとかプップーとか、遊びの音も続けます。まだしばらくは、こういう音を楽しめる年齢です。
声にはいろいろな調子をつけてみましょう

◆ 語りかけ育児の時間には、長すぎる文は使いません
こどもはもうあらゆる種類の単語と、たくさんの文法がわかっています。それでもひとつの文から取り入れる情報量には限りがあります。この時期の終わりまでは、まだ1文中に大切なことばは3語までですが、けっこう長い「おばあちゃんはバスでお店に行く」といった文が使えます。これぐらいの長さにしておくと、こどもの理解力はいちばん早く伸びます
 長さを制限するのには、もうひとつ大きな理由があります。こどもは動詞の活用といった文法を使いはじめますが、これは簡単ではありません。
 この文法の変化にちゃんと気がつけば、正しく使えるようになります。そのためにはなんといっても短い文を使うのがいちばんです。長い文では、こどもは意味を追いかけるだけで、せいいっぱいになってしまいます。
文が長すぎないように

◆ こどもの言いたいことを言って返してあげましよう
 こどもが文法を使いこなし始めるので、おとなにとってはこどもの話がわかりやすくなってきます。こどもが間違った文の使い方をしたら、おとなが正しい言い方で言ってあげることはとても役立ちます
 こういう場合の鉄則を思い出してください。おとなの言い方はいつでも自然な会話になっていなければなりませんし、こどもの言い方を直しているという感じを与えてはいけません。そのためには「そうね」で会話を始めましょう
 こどもはまだいくつか発音を間違えているでしょう。発音のシステムがすべて完成するには7歳までかかります

 発音を間違えていることばを、短い文の中で正しく言ってあげることは大いに役立ちます。こどもが「おおきなえんとちゆ」と言ったら、「そうね、大きいわね。とても大きなえんとつ。えんとつはお空にとどきそう」と言ってあげます。
 こうすればこどもはことばのすべての音を聞き取ることができ、音の順番もわかって、正しく言えるようになります。
 ここでも「そうね」で始める鉄則を忘れないでください
発音の誤りの直し方「そうね」で始めて正しい発音でくり返す

◆ こどもの言ったことをふくらませましよう
 こどもの言ったことをふくらませてやるのも、とてもいいことです。これをたくさんやりましょう。こどもが「ピエロがおかしなぼうしをかぶってた」と言えば、あなたは「そうね。てっぺんにボンボンがついていたわ。ボンボンがゆれると、みんな笑ったわね」と言えます。こういうふくらませ方が、おもしろい会話になってゆくのです。
 
◆ この年齢の子に、やってはいけないこと
 こどもの話し方を直さないこと。まわりのおとなもみんな、直さないようにしてください。こどもの発音はまだしばらく未熟です。これはどの音がことばの中のどこにおさまるのかがはっきりわかつていないことに、大きな理由があります。もうひとつの理由は、こどもの舌とくちびるがまだうまく協調して動かないので、難しい発音や混合音を言えないせいです。

 いちばんよいのは、おとながはっきり発音してこどもに聞かせることです。
 私たちのクリニックで診てきた何百人という発音不明瞭なこども達は、自分たちに何か問題があるとは夢にも思っていませんでした。こども達は楽しい遊び時間を過ごすためにやってきたと思っていたのです。
 私たちはその子たちに音の違いと順番とが、はっきりわかるような話し方で話しかけました。それがいちばん必要なことだからです。問題があるとすればひとつだけ、終わったあと遊び部屋から出るようにこども達を説得することでした。

◆ 教え込もうとしないでください
 こどもと一緒に過ごし、こどものしたいことをさせれば、こどもはことば、数、文法、概念、人とのかかわり方をごく自然に学びます。
 もしおとなが自分流のやり方を押しつけ、あることばや考えを教えようとしても、それはこどもにとって無意味でおもしろくなく、なかなか覚えられません。親が教え込もうとしたばっかりに、色や形や数がめちゃくちゃになっているこどもを、私はたくさん診てきました。親の教え込もうという気持ちを感じ取り、結果的に学ぶことが苦手な子になってしまっています。
色や形や数は教え込もうとするとこどもはなかなか覚えずかえって混乱します
 一方、2歳前に全部の色を知っているこども達もいました。この子たちは色の名前にとても興味があり、親たちもそのことに気づいていて、こども主導の遊びの中で自然に口にしていたからです。

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 今日も、この時期の「語りかけ育児」の話し方についてのお話です。4つのポイントがお話されていると思います。まずは、何といっても「聞くことが楽しい」ということ時間にしてあげること、本当に基本中の基本、大事なことだと思います。私たちはとかく、「正しいか、正しくないか」「良いか、悪いか」で判断しがちです。もちろんこれも大切なことだと思いますが、こどもが興味・関心を向けるのは「楽しいか」どうかだろうことは想像できます。楽しい時間、楽しい体験にしてあげたいと思います。そのために「こどもの言いたいことを言って返してあげる」ことや「こどもの言ったことをふくらませてあげる」ことはプラスになりますよね。「文が長すぎないように」に気をつけることも「教え込もうとしない」ことも、楽しい時間にするためには大切なことだと思います。

「語りかけ」育児 42

 2歳6か月から3歳までの 1日30分間 語りかけ育児 (続)
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◆ 遊びを豊かにしましよう
 毎日きちんと時間をとってこどもと遊ぶことが、こどもにとっていちばん助けになります。探索遊びとごっこ遊びがとても盛んになるときなので、手助けできることはたくさんあります。
遊びを豊かにする手助けをしましょう

 探索遊びにまず必要なのは適切な材料です。クレヨンや何種類もの紙といったお絵描き用の道具、水遊びや砂遊び用のおもちゃ、粘土などです。違うサイズ、形の容器や粘土用のヘラが必要です。あなたがこんなこともできるのよと、黒い紙に白いクレヨンで描いたり、こどもの手や足の形をなぞって描いてみせると、こどもはとても喜ぶでしょう。もちろんこどもが何かやってほしそうなときをとらえることが大切です。
 こどもは紙を切ったり折ったり、こった積み木の積み方といった難しいことをやってみたいので、上手に手助けすれば大歓迎されます。こどもがすでにできることを、伸ばしてあげましよう。はさみでかなりうまく切れるようになっているなら、折ってから切ればおもしろい形になることを教えます。やってみせたら手を引いて、こどもに試させましょう。助けてほしいときは、こどものほうから言ってきます。

 遊びの順番を理解させる機会もあるでしょう3歳になるまでに色合わせのようなゲームを楽しめるようになっているでしょう。こういう遊びは順番がかわることがゲームの一部として自然に学べます。
 ごっこ遊びでも同じように手助けができます。服やくつを貸してあげれば、遊びが盛り上がります。こどもがいままでに経験したこと、たとえば歯医者や床屋さんに関係する役をやってみせることもできます。こどもは歯医者さんや床屋さんが何をどうするかを知りたいのです。床屋さんがどんなふうに床に落ちた髪の毛を掃除するか、歯医者さんでうがい用の水がどうやって出てくるかなどをおとながやってみせると、こどもは今度は役割を交代して遊びに取り入れることができます。もちろんこどもが興味を持たなければ、決して続けてはいけません。

 こどもが農場や動物園の模型で遊ぶときも、同じように、トラクターが壊れたから修理しなくてはといったふうに、遊びを発展させられます。ただし、そういった提案はこども自身が経験していてわかる範囲でないと、意味がありません。
 こどもが積み木で車用の道を作るなど、遊び道具を組み合せはじめたら、信号や横断歩道を作ってあげましょう。
 この時期の終わりまでに、こどもは空想の人物を遊びの中に取り入れるかもしれません。おとながその空想につき合ってあげれば大喜びします。そういう人物の性格や行動を想像の中で広げていくことができますし、こどもの空想上の友だちの行動はおとなにとっても、とても興味深いに違いありません。

◆ 話し方
◆ こどもの関心の向いているものに気を配りましょう
 こどもはうまくいけばあなたの指示に従えますが、「語りかけ育児」の時間にはなるべくこどもの注意に合わせるほうが望ましいのです。こどもと、最近のおもしろいできごとや将来の計画について会話がはずむと思いますが、「いま、ここ」についてのことと、そうでないことについてどれだけ話すかは、完全にこどもに決めさせましょう。どちらにせよ、ことばの発達にはすばらしいことですから、心配することはありません。
こどもの注意に合わせて話しましょう

 会話の途中で、こどもがほかのものに注意をそらしたときは、すぐに話すのをやめます。話の内容が過去や未来についてであっても、現在のことであっても、同じです。
 こどもはいろいろなことができるようになっていますが、それでも注意はまだひとつの感覚に限られています。おとななら遊び時間中でも「いま、ここ」でないことをいろいろ考えられるのですが、こどもは実際のところ、ひとつのことしか考えられないのです
 実にたくさんの親が、こどもに集中力がないと不満に思っていますが、それはこのことがよくわかっていないからです。
集中力がないように見えるのはひとつのことしか考えられないからです

    マリアのお母さんは、マリアと遊ぶのにずいぶん時間をさいていましたが、ひ
   とつの遊びを完了させてからでないと、次の遊びへ移りませんでした。ある日、
   ふたりは楽しそうにままごとをしていました。しばらくしてマリアはその遊びが
   つまらなくなって、お絵描きのほうに向かいました。
    お母さんはもう一度すわってままごとをやらせようとしましたが、マリアは絵
   の具のほうばかり見て、お母さんの言うことを全然聞いていませんでした。お母
   さんが問題点に気づいて、マリアに遊びをまかせると、ふたりはまた一緒にいっ
   そう楽しく遊び始めました。

    3歳のルーシーの場合は正反対でした。両親はふたりがかりでルーシーと遊び、
   弟が眠っている限られた時間になるべくたくさんの遊びをしようとしていまし
   た。気の毒なことに、ルーシーはひとつの遊びをやり終える間もなく、よくでき
   たなと思う間もなく、さっさと遊びを片づけられてしまっていました。

 この時期、こどもとの会話は、時がたつにつれて楽になってきます。話題も広がって、こどもやほかの人がやったことについてだけではなく、なぜそうしたのか、そのときどう思ったのか、といった内容も含まれるようになります
 ことばを聞かせる機会は豊富にあります。好きなように新しいことばを使ってけっこうです。こわがる必要はありません。
 こどもの興味と注意にそって使う限り、こどもはあつという間に理解するでしょう新しいことばを使うときはくり返しが役立つので、いろいろな短文に入れて使いましょう
新しいことばをたくさん使いましょう

 文法も、いろいろ使って大丈夫です。単純な文にこだわらないで、ぴったりだと思う文を使います。こどもは文法もどんどんわかってきていますから、ここでもこどもの注意にそった場面で使うようにすれば、急速に覚えていきます。

     **********
 今日のお話は、遊びを豊かにする工夫と話し方についてのお話です。いずれの時期にも共通する留意点とこの時期に注意したり工夫する必要があることがらがお話されていて、毎日、実際に「語りかけ育児」を実践しながらでないと本当に理解するのは難しいところも多々感じられます。そのなかでも、今回も特に印象に残った点は集中力についての記述です。昨日の子育て教室でも、お母さんとの話の中で「集中力がない」というおこさんについての心配が何人かのお母さんから出されました。こどもの集中力については、読み進めてきたお話の中でいく度となく触れられています。こどもの関心や興味があるものにお母さんが気づくことの大切さが強調されていましたが、今回は、こどもが注意を向けられるのはひとつのことしかないないのだということをよく理解することの必要性も説明されていて、ことさら興味深く感じました。新しいことばを使う際の、繰り返しの大切さや、いろいろな短文に入れて使うということも覚えておきたいと思います。

「語りかけ」育児 41

 2歳6か月から3歳までの 1日30分間 語りかけ育児
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◆ 毎日、30分間だけは、こどもとしっかり向き合います
 30分間の「語りかけ育児」の時間はこどもの成長のほとんどすべての面において、はかり知れない恵みをもたらしますこどもの注意レベルにはまだ気をつけなければなりませんし、遊びの項で見たように、注意の分野の発達に関して、手助けできることはたくさんあります。
 とりわけおとなが確実に遊び相手をしてくれることは、こどもにはすばらしい贈り物です。こどもの情緒的な発達は、おとながたえずこどもに心を配り、こどもの冒険を助け、ほめたり励ましたりして自信をつけさせていくことで促されるのです。またこの時間は、日ごろやってはいけないことや確かめておきたいことを話し合う機会にもなります。理由を説明してやるのが、こどものかんしゃくを減らすのにいちばんです

 こどもは、ときにはできることをわざとできないと言ってみたりします。決まりを試してみる年齢なのです。しからなければならないときは、そのふるまいをしかって、こども自身をしからないようにしてください。「そんなことをするのはばかなこと」という言い方のほうが、「あなたはばかな子」というよりよいのです。
こどもをしかるのではなく″やったこと″をしかります

    ガイは3歳のときに連れてこられました。まもなく参加する保育グループで、
   話がわかってもらえない心配があったからです。ガイにはすごくおしゃべりなお
   姉さんが3人もいて、いままでひとりのおとなとだけ過ごす時間がほとんどなか
   ったことがわかりました。そのためしっかり会話をする機会があまりなく、どう
    会話を始めて、どう順番に話すかといった基本的なルールを学んでいませんでし
   た。しょっちゅう家族の会話に割りこんでは家族を怒らせ、返事を聞かないので
   よけい怒らせていました。
    お母さんと一対一の「語りかけ育児」の時間をつくるようにすると、ガイはた
   ちまち会話の方法を学んでいきました。3か月後ガイは保育グループにはいりま
   したが、何の問題も起こりませんでした。

 この「語りかけ育児」の時間はまた、こどものきりのない「なぜ、どうして」に、こどもが満足するまで答えてやれる機会です。日ごろの忙しいときにいちいち答えるのはたいへんですが、こどもは心ゆくまで質問することで、たくさんのことを学ぶのです。新しく上達した会話能力をためせる、すばらしい機会でもあります。
こどものきりのない「なぜ、とうして」に満足するまで答えてあけましょう

 さらにこの時間がこどもにとって大切なのは、このころは、下に弟妹ができる年齢でもあるからです。嫉妬や居どころがなくなったようなさびしさは、ひとりのおとなとずっと一緒にいられる時間があるだけでずいぶんいやされます。なんとかしてこの時間を続けましょう
弟や妹が生まれても「語りかけ育児」の30分間を見つけてください

 下の赤ちゃんに手がかかるようなら、パートナーが帰宅して赤ちゃんを見てくれるまで待つか、1日に30分、友人か親戚に来てもらいましょう
 この時期は、いちばん難しい時期でもありますが、こどもの心に気を配ることが大切です。こどもがふたりいれば、たとえ同じ年齢で同じ発育段階であっても、同時に、しかも同じやり方でふたりにことばを教えるのは困難です。それぞれのこどもが注意を向けているものに合わせる必要があるからです。
 ともあれ、こどものこれからの人生にとって、兄弟姉妹を持つよさを過小評価してはいけません。ことばの面からいえば、こどもと親と兄弟との間での3方向の会話は、とても大切な能力を育てることになるからです。こどもはいずれ、一対一ではなくて、競いながらコミュニケーションすることを学ばなければなりません。

 こどもが色や数、形といった概念に興味を持つので、教えておけば学校で役に立つだろうとおとなは思いがちですが、この「語りかけ」時間を、教え込む時間に変えてしまわないように気をつけてください
 貴重な時間を無駄にしないでください。これらの概念は、教えるのではなくごく自然に会話に取り入れましょう。たとえば車で遊びながら「あおいクルマときいろいクルマ」、積み木をしながら「ながい積み木はみじかい積み木の横にぴったり」というふうです。いままでなかった新しいことば、「でっかい、ちっぽけ」などもおもしろく感じられるでしょう。
色や数や形はこく自然に会話に取り入れます

 こんなふうに概念を表すことばをこどもに話していけば、こどもの注意しているものに従っていくという鉄則も守れます。こどもにとっておもしろければ、すんなり学べるのです。おとなの都合で教え込もうとすればなかなか覚えてくれず、あなたにとってもこどもにとっても、いらいらの原因となるでしょう。
 私が診てきた中には、色や形の名前をたくさん言えたり、アルファベットを機械じかけの人形のように暗唱できるのに、それが何であり、どうするのかわかっていないこどもがたくさんいました。そういう子の親は自然な会話を抜きにして、ものの名前だけを教えこんだのです。

    3歳のトビーは、ことばの遅れがひどいため連れてこられました。いちばんよ
   く言うことばは「ぼく、できない」でした。お母さんはこどもは早く教えれば早
   く覚えるという考えにとらわれていて、トビーが5か月のときに一日何時間も歩
   くことを教え、1歳になる前からアルファベツトや色や数や形の名前を教え始め
   ました。
    トビーはとても攻撃的で欲求不満な子に育ち、ほとんどの分野で発達の遅れが
   ありました。お母さんが自分の目標を捨て、教え込むのでなくこどもの興味にそ
   って話をしてやりはじめると、ワ」どもはすっかリリラックスして学び始めました。
   トビーのふるまいもすぐよくなり、数か月でことばも追いつきました。

    トムを初めて診たのは3歳になろうとするときでした。トムには学習障害のあ
   る伯父がいたので、不安にかられた両親はトムがそうならないようにと、あらゆ
   る機会をとらえて数えたリアルフアベツトを唱えることを教え込みました。
    トビーと同じように、トムもそんな文字や数が何を意味するかがまったくわか
   らないうえに、時間をとられて、遊びや会話が少なくなっていました。自分から
   口をきくことはごく少なく、言われたことも少ししかわからないので、しよっち
   ゅう聞いたことをオウム返しに言っていました。注意散漫で、ごっこ遊びもほと
   んどしませんでした。
    幸いにも、両親が教え込むことをやめ、トムの注意しているものに気をつける
   ようになると、すぐに進歩を見せました。

遊んだり会話を楽しめるようになる前に文字や数を教えるのは害にしかなりません

 教え込まずに自然な会話をするようにすれば、こどもはほかの人が何を知っているか、そしてその人が会話に加わるには、何を教えてあげる必要があるか、ということを身につけていきます
自然な会話の中でこどもはことばの役割を学んでいきます

 これは会話には欠かせない大切なことです。たとえばあなたが新しい赤ちゃんのことをどんなふうにほかの人に言っているかを聞けば、ほかの人はうちの赤ちゃんを知らないんだなとわかります。水泳を楽しんだ午後のことを、ふたりでどうおばあちゃんに話したかをこどもと話し合えば、こどもはおばあちゃんが何を知っていて何を知らないかを、もう一度思い出せます。うまくコミュニケーションを取ろうと思うなら、私たち全員がこういう情報を必要としています。

 自然な会話の中で、コメントしたり質問したり確かめたりと、ことばがさまざまなふうに使われているのをこどもはわかっていきます。そういう使い方が急に出てきても、こどもは状況を判断してわかるようになります。
 新しく赤ちゃんが生まれてあなたが忙しくても、洗濯などの家事をしながら一緒にすばらしい時間を過ごせます。ただし、あなたたちふたりだけで、部屋が静かであるように気をつけてください
 もしこどもが両親の離婚や家族の死といった悲しみを経験していれば、「語りかけ育児」の時間は特に大切なものになります。こどもがそのできごとについてどう思ったかを話し、あなたに質問することができます。こどもは、自分が悪いせいだと思い込むことが多いのですが、こどものせいではないと安心させてあげられます。
両親の離婚や家族の死などの悲しみのときには「語りかけ育児」は大切です
「あなたのせいではない」と安心させてあげることが必要です

◆ 始める前にチェックすること
以前と変わりありません。こどもにはいろいろなおもちゃや遊具が必要です。探索遊び用とごっこ遊び用を用意してくださいおもちゃが壊れていたりしないように気をつけて、こどもがすぐ見つけられるところに置きます。いろいろな物を組み合わせて遊びます。たとえば、積み木で車のための道をつくったり、汽車に人を乗せたりします。おもちゃを集める際には、その点を念頭においてください。
 遊ぶために十分なスペースをつくってあげましょう。もしできるなら、道路や滑走路といったこどもが作ったものを、ひと晩おいておけるようにしてください
こどもがつくったおもちゃの大作をひと晩そのままおいておけるスペースをつくってあげましよう

    私の息子が3歳のとき、息子と友達のポールは午後中ずっと農場を作るのに熱
   中し、動物たちに囲いや家を作って、そのできばえに大喜びでした。まずいこと
   に、ポールのお父さんはとりわけ整理整頓にこだわる人でした。こどもたちにそ
   のままにしておくことを許さないで、できあがったとたんに片づけを命じました。
   午後遅く私が息子を迎えにいくと、こどもたちはふたりとも涙にくれていました。

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 週明けです。今週もよろしくお願いいたします。今日から2歳6か月から3歳までの時期についての章に入りました。この章の書き出しの項は、いつもと違って長文です。たくさんの注意点や留意点、課題などがお話されています。なるほどと思いながら、しからなければならないときは「こどもをしかるのではなく″やったこと″をしかります」というのは私からみれば受け入れがたい気がします。どうもしかられたことについてトラウマでもあるのか、しからずに子育てをして欲しいというのが私の願いです。「『なぜ、とうして』に満足するまで答えてあけましょう」というのは大賛成です。そのほか、「教え込まない」といお話もそのとおりだと思います。「両親の離婚や家族の死などの悲しみのときには『語りかけ育児』は大切です」「『あなたのせいではない』と安心させてあげることが必要です」という記述にはこの年齢でと驚きを感じました。「こどもがつくったおもちゃの大作をひと晩そのままおいておけるスペースをつくってあげましよう」というところも気づきをいただきました。